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Friday, August 27, 2021

奥能登芸術祭 地域変えるアートの力 - 中日新聞

 四年ぶり二回目の奥能登国際芸術祭が能登半島の先端、石川県珠洲市全域を会場に開かれる。二〇一七年の初開催で発信した珠洲の魅力と、住民との協働をより深化させる内容に期待したい。

 新型コロナウイルス感染症防止のため一年延期され、今回は「奥能登国際芸術祭2020+(プラス)」と名付けた。会期は九月四日から十月二十四日まで。ただ石川県にまん延防止等重点措置が適用される期間は屋外展示中心に公開規模が縮小される。

 過疎の半島に残る自然環境、古くから今に伝わる生活文化が、引き続き舞台だ。初回を上回る世界十六の国と地域から五十三組のアーティストたちが現代アートを創作した。最涯(さいはて)と最先端が響き合う作品群が岬巡りを演出する。

 地域再生をかけた壮大なプロジェクトは前回、来場者が七万人を超え、五億円余の地元経済効果を生んだ。案内役として協働した住民たちが「こんな所に、こんなに人が来るなんて」と驚き、地域の魅力を再発見した効果は大きい。

 芸術祭とともに自然の美しさ、人の優しさも発信された。それが功を奏し、珠洲市には移住者が増えている。東京から本社機能の一部を移した上場企業もある。

 今回の注目は「珠洲の大蔵ざらえ」だ。家々の蔵や納屋に眠っていた民具や農具、漁具など計千五百点が集まった。伝わる記憶とともに整理分類し、廃校後の体育館を改修した「スズ・シアター・ミュージアム」によみがえらせた。

 例えば、思い出の衣類群は、切ってつなぎ合わせてキリコ(能登の祭りを彩る大型の灯籠)風に仕上げた=写真。制作には多くの住民たちが加わった。

 昔のモノを展示するだけでなく、どう活用できるのかを提案していて興味深い。新しい価値を付加し、新たな使い手をも探す“緩やかな保存”といえ、民俗資料館の在り方に一石を投じそうだ。

 コロナ禍で苦労も多かった。リモート制作を強いられた海外アーティストには、住民らが指示を受けながら作品を仕上げた。

 アートには人の心を動かし、地域を変えていく力がある。最涯のゆっくり流れる時(とき)の中でコロナ後の地方創生をじっくり考えたい。

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