
街角にひっそりと佇む昔ながらの洋食店。どんな街にも当たり前のようにある光景が、今、少しずつ姿を消しつつある。そんな町洋食の語り尽くせない本当のスゴさに迫る――。 ⇒【写真】冬期のみ提供されるかきソーテー
現代の料理人から過去の人物像に出会えるお店
昭和25年にフランス料理店として創業した「グリルエフ」のデミグラスソースは他のどこにもない個性的な味わいだ。牛肉と香味野菜をふんだんに使って、大きな寸胴鍋で長時間煮込んだ、いわば「デミソースの素」は、最後それを丁寧にこすことでその量がたったの3分の1になってしまう。搾りカスはそのまま捨ててしまうしかない。 このソース、濃厚な旨味に加えて奥深い苦味と香ばしさも特徴だ。前回仕込んだソースの表面ににじみ出す脂を使い、茶色を超えて黒くなるまで炒められる小麦粉のルウがこの苦味と香ばしさを醸し出す。完成したデミグラスソースは前回仕込んだソースの残りと合わせられ、各種の料理に使われる。老舗うなぎ屋のタレのように、それは創業以来70年ずっと繰り返されてきた。 洋食店の魂ともいえるこのデミグラスソースの濃密な味わいを手軽に味わえるこの店の人気メニューがハヤシライスだが、私がそれより気に入っているのがオックステール。 まさにクラシックフレンチ的な圧巻のボリュームで供されるそれは、ぶつ切りの牛の尾がやわらかく、しかしゼラチン質のヒキ(弾力)は残した絶妙な加減で煮込まれ、その全体を漆黒のデミグラスソースが覆っている。ソースだけすくって味見するとエスプレッソのような強い苦味を感じるが、それが肉と邂逅するとミラクルが起こるのだ。 肉そのものより濃密な肉味。シェフ自慢のビーフシチューやタンシチューも同様の力強さに溢れている。
つけ合わせにもまた見過ごせない魅力が
こういった肉料理に添えられるつけ合わせもまた見過ごせない魅力をたたえている。この日はインゲン、人参のグラッセ、筍のクリーム煮であった。 これらのつけ合わせはだいたい1週間ごとに季節の野菜を取り入れて変更される。私が初めて訪れたときのつけ合わせは、忘れもしない小かぶのクリーム煮とラタトゥイユだった。 明治、大正まで洋食のつけ合わせはこういった温野菜が主流だったという。その後、戦時中の人手不足を理由に、千切りキャベツやスパゲッティなどの手のかからないものに変えられていき、日本洋食の独特なスタイルが確立していった。 それはそれでよきものではあるが、やはりこういうフランス料理然としたつけ合わせは背筋が伸びるし、何より楽しくておいしい。時代とともに大きく変化していくフランス料理の世界にあってメイン料理の仕立ては常に移り変わっていくが、つけ合わせは不思議とそのまま時代を超える。 だからグリルエフの温野菜が現代のフランス料理におけるそれとほとんど差異がないのは、当然のことなのだがどこか不思議な感覚も覚える。甘さを加えていない人参のグラッセは、攻めた火入れの加減も含めてフランス料理らしさが横溢していた。
からの記事と詳細 ( 70年続く洋食店が「メニューは一切変えない」と言い切る理由(週刊SPA!) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
https://ift.tt/2P2JwdD
No comments:
Post a Comment