元看護師らによる入院患者への性的虐待事件があった神戸市西区の精神科病院「神出(かんで)病院」で、新たに院長に就いた土居正典氏(51)が、毎日新聞の取材に応じた。土居氏は事件を「腹が立った」と振り返り、検証のため第三者委員会の設立を明言。「閉鎖的だった病院の風土を変える」と改革への姿勢を示した。【聞き手・韓光勲】
「覚悟を決めて引き受けた」
――6月1日に院長に就任した経緯は。
◆3月に神出病院の人事担当者から就任の打診があった。私はその時、精神科病院「県立ひょうごこころの医療センター」で精神科救急医療センター長だった。神出病院とはそれまで関わりはなく、非常に驚いた。
ただ、一連の事件のニュースを見て、腹が立ち、他の大勢の入院患者さんが適切に治療を受けられているかを心配していた。病院を変えたいと、覚悟を決めて引き受けた。
――虐待事件はなぜ起きたと思うか。
◆病院が閉鎖的で、地域や行政など外部の監視の目を拒んでいた。現場の職員と上層部とのコミュニケーションが少なく、問題があっても情報が共有されない体制にもなっていた。大澤次郎元院長の影響力が非常に強く、現場が上層部に意見を伝えづらい風土が背景にあったのだろう。
――大澤元院長は2020年11月、事件を受けて開かれた入院患者の家族への説明会で「虐待の事実を知らなかった」と話した。
◆大澤元院長が知っていたかどうかについて、すぐにはお答えはできない。仮に知らなかったとしても、院長には問題がある組織をつくった責任がある。当たり前のことだ。
――元看護師らは裁判で、「先輩が虐待をしていた」「虐待をしないと一人前の看護師と思われなかった」と虐待の常態化をうかがわせる証言をしていた。
◆まだ、話せないが、説明は必要な部分だと思っている。今言えるのは、看護師ら個人に問題があっても、それを許した風土があったということ。私はかなり厳しく見ている。
――今年5月には看護師による患者への暴行事案があったことが明らかになった。
◆警察が捜査しているので詳細は説明できないが、すぐに神戸市に通報し、警察にも届け出た。病院が外にオープンであることが、大事だと思っている。それが組織の体質の改善につながると思っている。
第三者委設置へ、病院の独善防ぐ
――病院は職員らによる「危機管理委員会」で虐待事件の原因を調査したとするが、被害者の家族にすら内容が一切、明らかにされていない。
◆委員会には外部の先生も入り、突っ込んだ話をしている。さらに再生委員会をつくり、虐待防止マニュアルも整備した。公表することが大切だが、現時点ではできない。今後、被害者のご家族らに私の立場でお話しできることは説明しないといけない。
また、第三者委員会を設置するため、市と相談しているので、早々に具体的な形を公表したい。病院が独善的にならないよう、耳の痛いことを言ってくれる人が必要だ。
――今後、どういう病院にしたいか。
◆患者のために何ができるかを考え、人権に配慮し、地域に開かれた病院をつくる。医療者として至極当たり前なことをやっていきたい。療養環境を良くするため、新しい職員を迎え入れ、医師や職員が受け持つ患者数を適正化することも検討する。手厚いケアのためにはマンパワーが必要だ。
また、カルテの電子化を進め、情報伝達の仕組みを整えたい。病院の問題点を洗い出し、改善点をロードマップとしてまとめようと動いている。いずれホームページでも公表したい。私は個人的に病棟回診を始めた。患者さんの体調を聞いたり、あいさつをしたりして、看護師が働く様子も見られる。その中でさらに病院の足りないところも見えてくると思う。
――職員や医師の意識改革はどう進めるのか。
◆人権尊重や不法行為をしないといった当たり前の教育をする。事件を起こしてしまったことは、病院の職員として常に心にとどめておくべきだ。絶対に起こさないという気持ちを持つことが大切。幹部には直接会って改革の意思を伝えている。
――今回、取材に応じた理由は。
◆社会は厳しい目で見ているので、病院をオープンにすべきだと考えた。改善すべき点や反省があれば、それを社会に広く伝える義務があると思っている。
神出病院の虐待事件
2020年3月、元看護師ら6人が、入院患者同士に無理やりキスをさせたなどとして県警に準強制わいせつ容疑などで逮捕された。6人は同10月までに有罪判決が確定した。市のアンケートによると、職員の半数近くが虐待を認識し、全病棟での違法な隔離が10年以上前から常態化していたことが判明した。市は20年8月、精神保健福祉法に基づく改善命令を出し、第三者委員会の設置を要求。事件当時の院長だった大澤次郎氏は21年2月に退任した。福井裕行氏が後任となり、6月1日に土居正典氏が新院長に就任した。
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