
ノートパソコンに映った営業部門主任の
オンライン会議が終わり、中山さんが「もんさん、今日のお昼ごはんは何ですか?」と愛称で呼びかけた。門林さんは「夕食の残りのカレー」と応じ、ケラケラと笑い合った。
注文住宅などを手がける「楓工務店」(奈良市)の会議室。門林さんは、テレワークで〈出社〉する。京都府職員の夫と結婚した2019年11月、120キロ北の日本海に面した京丹後市に引っ越し。田園風景が望める8畳ほどの自宅の一室が、職場となった。
当時は入社6年目。営業の仕事に充実感を感じていた。続けられるのか悩んだが、「成長させてもらった経験を生かしたい」と、テレワークを願い出た。
始めてみると、意外なほど支障はなかった。それよりもメリットを感じている。「仕事に集中できるのは、在宅ならでは。会議も定時にスタートし、だらだらしない。効率は上がった」
社内では同期が1年早く、夫の転勤で富山市に引っ越し、初めてテレワークを導入。自宅に仕事部屋を設けるなどのコツをマニュアルにまとめてくれていた。子育ての事情でテレワークするスタッフも続いた。
そうした実績が、新型コロナウイルス感染拡大の中で生きた。昨年4月から3か月間、現場担当を除く全員が、在宅勤務に移行した。顧客との打ち合わせ、社員同士の昼食会や飲み会も、オンラインで自然にできた。
コロナ禍は、働き方の変革を迫った。対面の会議や定時の通勤に代わり、自宅や出先からのテレワークが一気に広がった。テレワーク手当を導入する企業が増え、社員のまま地方移住に踏み出す人も相次いでいる。
楓工務店は07年の会社設立以来、3分の2が新卒採用となった。平均年齢は31歳と若く、先進的な取り組みに柔軟だ。「せっかく育てた社員が離れていくのはつらい」と語る田尻忠義社長(51)は、こう強調した。「コロナによって社会全体が新しい働き方の必要性に気付いたはず」
観光地などで余暇を楽しみながらテレワークをする「ワーケーション」も、コロナ禍で注目されるようになった。「密」を避けながら気分を変えて働け、観光地にとっても新たな顧客の開拓につながる。
昨年11月30日、吉野町の吉野山を、大阪のクリエイターがノートパソコン持参で訪れた。民宿「太鼓判」が企画したワーケーションのモニターツアーだ。
訪れたのは大阪市西区の中矢丸晋さん(46)。企業などのホームページや広告を作り、商品の開発販売をアドバイスしており、オンライン会議も含め、パソコンがあれば仕事できる。吉野山は山岳修行をする山伏たちの聖地。「普段と違う景色を見たい」。家族旅行を兼ねて参加した。
案内役を務めた山伏の女性とともに、一家で山中を散策。道端の草木を見て回り、石像に手を合わせた。2時間ほど巡って宿に戻り、パソコンに向かった。「時間の流れ方が違う」とすっきりした表情の中矢丸さん。「家と職場の往復では得られない心のゆとりができ、新しい発想が湧いてくる」
太鼓判は、年末までに5組を迎えた。専務の東広明さん(37)は「新たな客との交流が生まれ、斬新な取り組みにつながりそう」と期待する。
吉野町もまもなく、ワーケーションを町内の宿で試した人に協力金を支給するモニター制度を始める。町の担当者は覚悟を語る。「観光地として生き残るには新しい発想が必要だ」(中井将一郎)
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