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1959年、気象庁に導入された日本初の行政用コンピュータ「IBM704」。 当時の貴重の映像からスーパーコンピュータが気象予報にもたらした進化を振り返ります。 そして、気象庁長官が語る気象予報の未来と使命とは。 1959年、気象庁初代長官 和達清夫さんによる火入れ式の様子です。 日本初の行政用に導入されたコンピュータ「IBM704」 当時は電子計算機と呼ばれていました。 現在、気象予報業務で使われているスーパーコンピュータの初代です。 気象庁 長谷川直之長官: 「ああ、和達長官ですね。 紙が出てくるところや、灯りがピカピカしてるのを見て、コンピュータが働いていることが分かっていいなと思って」 現在の気象庁のトップ、長谷川直之長官は、スーパーコンピュータを用いた予報業務を行う数値予報課の課長などを歴任してきました。 1959年にアメリカから輸入された「IBM704」 輸送コンテナには「東洋で最初の超大型電子計算機」の文字が…。 当時世界でも最先端のコンピュータでした。 そして「皆さんの天気予報をより正確に」とメッセージが書かれています。 「IBM704」の火入れ式では、気象庁に“あるもの”が贈られました。 長谷川長官: 「これ気象庁が一番最初に数値予報を始めた時のコンピュータ(IBM704)の鍵。 なんですが、先ほどの火入れ式の映像でも和達長官はスイッチを押して火入れしていました。 どうも話を聞くとこの鍵をカギ穴に差し込んでスイッチオンとやっているわけではなくて、これはある意味シンボルとしてIBM社から当時の長官に渡されたものと聞いています。」 日本IBM水品社長から、和達長官に贈られた金の飾り鍵。 持ち手にはIBMの刻印が。裏側には気象庁の略称である「JMA」の文字が刻まれています。 IBM704の導入で気象予報の未来を大きく変える扉が開かれました。 スーパーコンピュータ導入以前の予報の方法はどのようなものだったのでしょうか? 気象の歴史に詳しい山本孝二元気象庁長官に話を聞きました。 山本さん: 「観測したデータを電報で集めるわけですね。 集めると我々は天気図を作ります。 その天気図の中に、予報官の頭の中では雲ができたり、雨が降ったり、予報官の頭の中で組み立てていたわけです。 つまり観測したデータを天気図にして、その天気図に基づいて予報を出してきた。 これが戦前から1959年、60年近くまで行われた方式です。 まさに人間の力だけでやっていた。」 しかし、当時は観測地点も少なく、予報できる日数も3日先以上は難しかったと山本さんは語ります。 そこでより先の天気を予報するために実用化を目指したのがスーパーコンピュータによる「数値予報」です。 「数値予報」とは一体…? 長谷川長官: 「一言でいうと気象のコンピュータシミュレーションです。 気象だとか天気とか雲とか見ていると、気ままで無秩序のように見えるんですけど、実は物理法則に従って変化している。 ですので物理法則を表す方程式を使えば、未来の風や気温を計算できる。 それをやっているのが数値予報。 今の気象予報の根幹を支える大変重要な技術です。」 数値予報では地表、そして大気をメッシュ、つまり格子状に区切りその地点地点での気象状態を計算します。 地球全体のメッシュはおびただしい数となります。 さらに時間の経過ごとに計算を繰り返す必要があります。そのため、膨大な計算量となります。 そこで活躍したのが、スーパーコンピュータ。 「IBM704」の導入によって日本において「数値予報」が実用化されました。 当時最先端だった「IBM704」ですが、それでも計算能力は現行のものの1兆分の1でした。 導入当時の数値予報の結果は現場の予報官の使用には耐えられなかったと山本さんは語ります。 山本元長官: 「計算能力がそれほどなくて、非常に粗い格子点(メッシュ)で計算せざるを得なかった。 数値予報を担当した方たちは(言っていた。) 「10年間は(数値予報を)予報官に使ってもらうことは難しいかもしれない。」 しかし、コンピュータの計算能力と数値予報技術の向上によって、予測シミュレーションの精度は大幅に改善していきます。 数値予報で予測できる気象現象の規模はメッシュの大きさに依存しています。 メッシュの間隔が広ければより広範囲の事象が、狭ければより局地的な気象現象を予測することが可能です。 現在気象庁では、長期、中期、短期の予報に合わせて、いくつかの数値予報の技術=数値予報モデルを運用しています。 週間予報や1カ月予報といった長期的な予報には「全球モデル」が用いられます。 地球全体を観測対象として、気圧配置の変動や、台風の進路予測にも活用され、1987年第5世代のスーパーコンピュータとともに導入されました。 全球モデル導入当初は110km間隔と非常に粗いメッシュだったため日本列島の形も曖昧でした。 当時、数値予報課に在籍していた長谷川長官は… 長谷川長官: 「山岳がそれまでは、中部山岳と富士山が分離できない。この辺が高いというくらいだった。」 その後、スーパーコンピュータの性能の向上とともに現在では20km間隔までメッシュを細かくすることで地形の影響も考慮した非常にきめ細かい予測が可能になっています。 3日先程度までの中期の予報には「メソモデル」、10時間先までの短期的な予報には「局地モデル」が運用されています。 どちらも日本周辺を観測対象にしています。 より予測時間の長い「メソモデル」では5kmメッシュで1日8回予測計算を行い、数時間から1日先の大雨や暴風などの災害をもたらす現象を予測することが目的とされています。 局地モデルではメソモデルより細かい2kmメッシュとなり予測計算も1日24回と高い頻度で行われています。 局地モデルでは目先数時間程度の局地的な大雨の発生予測などに利用されています。 気象庁ではスーパーコンピュータの計算能力を向上させて、各モデルのメッシュをより細かくすることを目指しています。 長谷川長官: 「東京と横浜では天気は違う、なのでそれぞれの場所で計算しなけれいけない。 極端に言えば東京駅と新橋駅でも雨が降っている晴れているの差があるわけで、なるべくたくさんのポイントで計算してあげるっていうのが大事。」 また数値予報モデルでは1カ月を超える長期の予報に用いられるものがあります。 それが「大気海洋結合モデル」です。 1か月を超える予報では大気の状態だけでなく、海洋の状態変動も併せて予報することが必要となります。 この「大気海洋結合モデル」、先日ノーベル物理学賞の受賞が決まった真鍋淑郎さんが開発したものです。 スーパーコンピュータの発達とともに数値予報モデルは発展を続けていますが課題は残されています。 長谷川長官: 「特に梅雨期の大雨の災害というのは、数多くが『線状降水帯』によるものが多いです。 そういう意味では線状降水帯の予測は防災にとって大事であるんですが、今現在、数値予報をもってしてもその発生を事前に予測するということができていません。」 「線状降水帯」 広島市を中心に広範囲に被害をもたらした平成26年8月豪雨以降、頻繁に耳にするようになったこの現象。 その後も各地で被害をもたらしています。 線乗降したいの予報の難しさは、その発生のメカニズムにあります。 長谷川長官: 「夏の夕立だと積乱雲という雲が1つできるだけなのでだいたい1時間ぐらいで止んでしまう。 その積乱雲が連なっていくという現象なので、次から次へと同じ場所で発生している状態が続いてしまう。 3時間とか5時間とか長い時間続いてしまう。 積乱雲ぐらいのきめの細かさで計算をしてあげなければいけないです。 これには膨大な計算量が必要となります。 湿った水蒸気が同じ場所にどんどん供給されることが大事だということが分かってきまして、水蒸気の観測を正確にやっていく必要があることが分かってきた。」 数多くの課題を抱えながらも、少しずつ線状降水帯の予測には可能性が見え始めています。 8月11日 気象庁の会見: 「現在、(線状降水帯の)予測はなかなか難しい。 ただし線状降水帯が発生してもおかしくない状況」 今年8月、お盆の連休を前に気象庁は異例の呼びかけをしました。 予測は困難としながらも線状降水帯の発生を事前に示唆したのです。 この会見の背景について、長谷川長官は… 長谷川長官: 「数値予報の結果として、気圧配置とか、大きな意味での日本列島に比べると大きな水蒸気の流れとかそういうものから8月11日からしばらくの間、大雨が続きそうだということが予想できていました。 あの時は、予報官が自分の持っている知見として、「こういう状況の時には、広い範囲で大雨が予想されている。そういう中のどこかで線状降水帯が起こる可能性がある』という風に考えて、皆さんに警戒を促した。」 その後実際に8月12日には九州地方で、翌日13日には広島で線状降水帯の発生が確認され大雨特別警報が発表されました。 線状降水帯予測は現在、予報官の知見に基づく予想にとどまっています。 しかし、長谷川長官は来年、新たな一歩を踏み出したいとしています。 長谷川長官: 「線状降水帯の発生の可能性があるぞということについて、来年(2022年)第一歩を踏み出したいと思っている。 「例えば『九州北部のどこかで明日の朝までに線状降水帯が起こる可能性があるんじゃないか』 こういう予測が可能になると考えています。」 気象庁では来年までに線状降水帯の12時間前までの発生予測を実現させるとしています。 それを実現させるためのカギが「アンサンブル予報」です。 気象庁数値予報課 石田純一(いしだ・じゅんいち)課長によると… 石田課長: 「少しずつ条件を変えて、予報モデルを複数計算することを行っている。 複数計算してどれも同じような結果が得られれば信頼度の高い(予報)となりますし、ちょっと条件が違うだけなのに予報がバラバラになってしまうと信頼度が低いと見積もる技術。 大気の状態は現在、様々な技術で観測されていますが、観測方法ごとに誤差が生じます。 わずかな誤差が先々の予報において大きな誤差となるため、条件の異なる複数の計算を行い予報を導き出す技術が「アンサンブル予報」です。 この「アンサンブル予報」。 すでに数値予報モデルでは「全球モデル」と「メソモデル」に導入されていて、台風の進路予想で成果を上げています。 そして今後、「局地モデル」にも応用することで線状降水帯の予測への応用が期待されています。 そのためにはスーパーコンピュータの計算能力の向上、そして計算の基となる観測技術の向上が急務です。 長谷川長官は今後の展望について… 長谷川長官: 「この仕事というのは、線状降水帯の予測ってまさに防災上、非常に重要な課題なので、とにかく出来ることは出来るだけ前倒しでやりたいと思っている。 やるべきことっていうのは、水蒸気の観測の充実をなるべく前倒してやりたいというのと、計算能力を高めて、予測に必要なプログラムの開発、いわゆる数値予報の技術開発ですね。 これをとにかく最優先で進めて、少しでも早く線状降水帯の予測をしていく。 具体的な目標もすでに見据えています。 長谷川長官: 「線状降水帯という現象の予測ということを考えると、積乱雲を数値予報の中で予測していくことが本質的に大事だと思っています。 それをやるためには、1km未満(のメッシュ)ですね。 本当にチャレンジングな仕事だと思っています。 この目標を実現するため、気象庁では2023年度までにスーパーコンピュータの更新を目指しています。 長谷川長官: 「気象庁のスーパーコンピュータの性能というのは、気象庁が出す予測の性能そのものと言っていいと思います。 これまで私たちは高い性能のスーパーコンピュータを使って、最新の数値予報の技術を使って、精度の高い予報を出す。 特に大雨警報だとか防災に関する情報に力を入れています。 これからも高い性能を持ったスーパーコンピュータをしっかり入れて、最先端の技術を導入して、良い精度の防災情報を皆さんに提供して皆さんの命を守るっていうのが私たちの使命なので、それをしっかりやっていきたいと思います。 スーパーコンピュータの導入からおよそ60年… 「IBM704」によって数値予報の扉が開き、10代にわたり、生活に密接する気象予報を届けてきました。 そして、私たちの命を守るための、新たな扉がまた開こうとしています。
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