米国でもっとも権威ある文学賞の一つ、全米図書賞の翻訳文学部門に『JR上野駅公園口』が選ばれた柳美里さんは、東日本大震災以降、福島県南相馬市の臨時災害放送局のラジオ番組で6年間、地元の人々の声に耳を傾け続けた。「聞くこと」を通して自らの創作がまったく変わっていったという柳さんは、5年前に同市に移り住み、ブックカフェを開いている。受賞から10日ほどたって、柳さんが改めて取材に応じた。
――全米図書賞を受賞して、『JR上野駅公園口』は各地で品切れが続出しています。
南相馬での反応は東京とはまたちょっとちがう。まず役場が横断幕をかけました。甲子園出場みたいなノリなんですよ。私はずっと都会で暮らしていたので、こういうことになるのかと驚いています。
それから、地元のテレビ局で報道されたとたんに、お年寄りが本屋に次々いらっしゃった。手に手に持っているのは畑で抜いた大根やブロッコリー、ニンジン、白菜なんです。それを新聞紙に包んで「うれしどなぁ。いがったなぁ」と。「震災がら悲しくて辛ぇごどばっかりだったげんちょ、昨日はうれしぐで泣いじまったわ」と、お年寄りがマスク越しに涙ぐんで震えているんですよ。畑を持っていない方の中には、とにかく駆けつけたいので冷蔵庫から納豆を取り出して持って来て下さる方もいました。
拡大する全米図書賞の受賞を知って書店に訪れた客と話す柳美里さん(左)=2020年11月19日午後2時42分、福島県南相馬市小高区、佐々木達也撮影
富岡町の社会福祉協議会の方がいらっしゃったこともありました。(同町の)全身にがんが回っている方がどうしても『JR上野駅公園口』を読みたいとおっしゃっていると。自分の手元に一冊だけ単行本があったのをサインしてお渡しした。切実に読みたいと思って下さる方がいる。本屋をやっていることもあって、書斎にいる小説家の受ける受賞の知らせとはちがっていますね。
記事の後半では、本屋を開いて自宅を開放したいきさつや、「男子と女子の仲がわるすぎた」高校の演劇部でともに劇をつくったエピソードも語ってもらいました。
――受賞会見で「消え入りそうな声を受信するのが仕事」と話されていたのが印象に残りました。南相馬市で6年にわたり、臨時災害放送局のラジオ番組「柳美里のふたりとひとり」で地元の方の話を聞き続けていましたね。そのことで物語の作り方が変わったのでしょうか。
それはもうまったく変わりまし…
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