2020年11月08日09時00分
◆政治アナリスト・伊藤 惇夫◆
著名な評論家だった山本七平氏の著書「空気の研究」(1977年刊)によれば、日本は「空気」がある種の絶対権威のように、驚くべきパワーを持っているという。
あれから40年以上たった今、この国では、より一層、「空気」の支配力が強まっているようだ。
◆安倍氏評価も一変
安倍晋三前首相が突然、辞任表明したとたん、それまでコロナ対策の度重なる不手際への不満から、30%台前半に張り付いていた支持率が、一挙に20%近く跳ね上がった。
ある種の同情論からかもしれないが、客観的に見れば、未曽有のコロナ危機の真っただ中、最高責任者が途中で「投げ出した」わけだから、むしろ支持率が下がっても不思議はない。
「空気」の流れが突然、急変したのはなぜか。不可解としか言いようがない。
確かに、突然の交代劇だっただけに、永田町の力学からすれば、菅義偉氏が緊急リリーフとして登場してきたことに、それほど違和感はない。
◆菅氏に突然の風
むしろ、驚嘆したのは、世論の動向だ。それまで菅氏は「ポスト安倍」を占う人気投票(世論調査)では、石破茂元自民党幹事長や小泉進次郎環境相らの遥か後塵(こうじん)を拝していた。
ところが、安倍前首相が辞任を表明した直後に菅氏が出馬表明するや、世論も急速に風向きを変える。
それまでダントツに人気を維持していた石破氏を、アッという間に抜き去り、トップに躍り出る。
自民党内の主要派閥が菅氏を「勝ち馬」と読んで飛び乗ったことに引きずられたのか、テレビを中心に、メデイアが一斉に「たたき上げ」や「パンケーキ好き」といった菅氏のポジティブイメージを流したからなのか。それにしてもこの変わりようは驚くほかない。
◆意図的な「空気」づくり
好スタートを切った菅政権だが、日本学術会議問題でつまずいた。事の本質は、なぜ学術会議の会員候補6人が任命されなかったのか、という点に尽きる。
ところが、政権が苦境に陥るといった雰囲気が漂い始めた途端、自民党内や「応援団」的マスコミ、著名人から一斉に学術会議そのものに問題がある、といった声が噴出した。
これらは明らかに学術会議をおとしめることで、論点をずらそうという意図から出ているものとしか思えない。おまけに、それらの多くは不正確な、もっと言えば「フェイク」に近い言説である。
本来、「空気」は人工的につくり出せるものではないはず。意図的な「空気」づくりに、果たして世論はどう反応するのだろうか。
(時事通信社「コメントライナー」2020年11月4日号より)
【筆者紹介】
伊藤 惇夫(いとう・あつお) 1948年生まれ。自民党本部の広報担当、新進党総務局企画室長、民主党結成・事務局長などを経て2001年より政治アナリスト。政界の裏事情に通じ、明快な語り口に人気が高い。テレビ・ラジオ出演のほか、「国家漂流」「政治の数字」「情報を見抜く思考法」「政党崩壊」など著書多数。 ![]()
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