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Photo:PIXTA |
”アベノミクス景気”の山
2018年10月と認定で“不満”
内閣府は2018年10月を景気の「山」に認定したが、政治サイドからの評判はよろしくないようだ。
アベノミクス登場とともに景気は底打ちし、「戦後最長の景気拡大」を続けているというシナリオで来ていたのに、それがついえてしまった。せめて、新型コロナウイルス感染の広がりという100年に一度の世界的惨事に見舞われ、景気は後退するに至ったというシナリオに変更しようと思ったら、それもできなかったということのようだ。
怒りの矛先は、景気の山谷を決定する景気動向指数や景気基準日付の判定手法の見直しに向かっているが、それは筋違いというものだ。
メリハリが効かなくなった景気
景気の山谷の判断難しく
景気動向指数や景気基準日付の判定手法は見直しが必要という認識は、もともと民間のエコノミストの中にもあった。
かつては景気が明確に変動していたが、2010年代以降、景気変動にメリハリがなくなり、なんらかの改善の必要性はあった。
景気は、「回復」(内閣府は拡張と呼ぶ)と「後退」の2つの局面に分かれ、それが交互に登場するという考え方が、景気判断の基本だ。その間にあるのが山と谷である。
景気の回復と後退がはっきりしているときは山・谷の判定もしやすかった。
山の認定方法は2つのステップを経る。まず、景気の山の候補を特定する。これは機械的に行われる。ヒストリカルDI(景気動向指数CI・一致の個々の系列が上昇しているか、下降しているかを判定し、その比率を示したもの。その全系列が上昇していれば100%、全系列下降していれば0%)で、50%を下回る状況が続くと、50を下回った直前の月が景気の山の候補となる。
次に、候補となった山以降の経済動向が景気後退にふさわしいものなのか、経済活動の収縮の「波及度」、「量的な変化」、「期間の長さ」の3つの基準で評価する。
この判定を行うのが、内閣府の経済社会総合研究所長が招集する有識者からなる景気動向指数研究会だ。
この2段階の認定方法は景気変動にメリハリが効いているときは問題なかった。しかし、リーマンショックからの回復を経て2010年代に入ると、景気が回復しているのか後退しているのか分からない状況が現れてきてしまった。
ヒストリカルDIが50%を下回る状況が続き、景気の山の候補は出てくるのだが、上述の3つの基準で評価すると、それを後退と認定してよいのかどうかの判断が難しくなってきた。
特に問題となったのは景気後退の広がりを示す「波及度」についての基準だ。
「回復していないが、後退もしていない」
「戦後最長」実現の思惑持たせる
ヒストリカルDIが50%を下回って景気の山の候補が出てくるのだが、波及度について異なる意見が出て、山が認定されないと、景気は「回復していない」ことになるし、また景気は「後退していない」ことになる。
つまり、景気は「回復もしていないが、後退もしていない」というどっちつかずの状況が生まれてしまう。
二分法のもとでは、「後退していない」=「回復している」ということになり、山が認定されなければ回復が続いていることになる。結局、景気は「回復していないが、回復している」ことになる。
実際、ここの10年ほどはヒストリカルDIが50%を下回る状況が続いても、景気後退と判断してよいのか悩ましい状況が続いた。
2012年3月の山(暫定認定時は同年4月)を認定した13年8月の景気動向指数研究会では、波及度の点から、ヒストリカルDIの低下が不十分で山と認定してよいのかという意見も出たが、最終的には山と認定された。
ところが、同じような状況で山の候補となった2014年3月については、波及度の点からヒストリカルDIの低下が不十分であり、山と認定しないという結論が出た。
この2つの判断の差は微妙で、説得力のある説明は難しい。2012年3月の山を判定するときには、これまでの基準を緩めたのに、14年3月の山の認定のときにはまた基準を厳しくしてしまった。
このときに景気の山と認定せず、後者を幻の山にしてしまったことによって、ヒストリカルDIが50%を下回る状況が続いていながら、景気基準日付上は景気回復が続いているというおかしな状況が“認知”されることになった。
そしてそのことが、景気は後退していないから景気は回復を続けているという理屈になり、「戦後最長の景気拡大」を実現するという思惑を作り出してしまった。
今回の2012年11月を谷とする景気拡大は回復の実感に乏しいと指摘されてきたが、実際には2018年11月以降はもとより、14年4月以降もしばらくは、そもそも景気が回復していない時期が続いていたわけだ。
こうした景気は回復していないが後退もしていないという禅問答のような状況が生じないように、景気の山の決定方法を見直す必要はある。昔に比べて景気が変動しないようになっているのに、これまでと同じ厳しい基準で山を認定しようとすることには無理があるからだ。
だが今回、政府部内で語られる見直しの議論はいささか動機が不純な感じを否めない。
矜持と見識を示した
景気動向指数研究会
アベノミクスによる「戦後最長の景気拡大」をアピールしたかった安倍政権としては、2018年10月を景気の山にするというのは納得できるものではなかっただろう。
だが、2018年10月については、米中貿易戦争が始まり世界経済の減速が強まったことによって、ヒストリカルDIがゼロまで低下し、久しぶりにすっきり山が認定される状況だった。
もともと有識者からなる景気動向指数研究会の議論を経て、経済社会総合研究所所長が景気の山を認定する今の仕組みは、閣僚会議に報告する月例経済報告の景気判断に比べて、政治的思惑が入りにくい構造になっていた。
それでも政権が強引にルールを変えてしまえば、山のタイミングをずらすことはできたかもしれないが、もしそのようなことをしたら、その決定過程の不透明さが指摘されることは避けられなかったろう。
景気が後退していないから回復しているというロジックで、気が付いてみたら戦後最長の景気拡大というのはいただけない。
2018年10月を山と認定したことは、これまでのルールからすれば当然の結果だが、政権からのプレッシャーもあったのではないかと想像される中で、景気動向指数研究会が見識と矜持を示したと評価したい。
認定に「不本意」の政府
判定方法の見直しを表明
しかし、このことは政治の世界の感覚でいえばとんでもない話ということなのだろう。景気動向指数研究会の本当の試練はこれからのようだ。
今回の山の認定に対し、経済社会総合研究所が発表した資料にも政治の影を感じさせる記述がある。
資料では、(1)景気の山以降も景気回復局面の継続を示唆する動きが存在していたこと、(2)景気の山を挟んで前後で経済状態が著しく変化したわけではないこと、(3)同じ景気後退局面であっても、当初の緩やかな動きをしていた局面と新型コロナウイルス感染拡大に伴い大幅に悪化した局面では、内容も背景も大きく異なること、が強調されている。
その上で、景気動向指数及び景気基準日付の判定手法の見直しについて検討を行っていく方針が書かれた。
景気の山の認定に際して、わざわざこのようなコメントを付けるのは異例であり、まるで、景気動向指数やヒストリカルDIが景気の実態を反映していないかのような書きぶりだ。
ヒストリカルDI算出の基になる景気動向指数(一致・CI)の系列が製造業関連に偏っており、サービス経済化の進展に対応できていないという指摘は分からないでもない。ただ、景気動向指数は、景気変動の大きさやテンポを測定するものであり、そこで採用されている系列は景気の動向に敏感な指標となる。サービス業より製造業に偏っていることは致し方ない面もある。
変動がほとんどないサービス関連の指標を使えば、ますます山谷の判定が難しくなる。山がなかなかつかなければ、前述したように景気拡大が長く続くことにもなる。
実際は、そうした政治の事情から景気動向指数などの見直しの話が出ているのであれば、論外だ。
景気動向指数を
悪者にしてはいけない
研究会の資料では、ヒストリカルDIと実質GDP、日銀短観、非製造業関連や雇用所得関連の指標等との動きの違いが指摘されている。だが指標が乖離(かいり)しているからといって、一方的に景気動向指数の方がおかしいということにはならない。
ヒストリカルDIが景気に一致する指標で判断しているのに対して、GDPでは景気に遅行する個人消費や設備投資も含まれてくる。景気が山をつけてもある程度のGDP成長率が維持されるのは不思議ではない。
非製造業関連や雇用所得関連の指標も、同様に景気に遅行するものであり、景気が山をつけてもしばらく堅調な動きを続けることがある。
日銀短観の非製造業では景気が山をつけてもあまり業況判断DIが低下しなかったことが指摘されているが、これも同様のことだ。
さらに言えば、日銀短観は業況の「良い」「悪い」という水準を問うものである。つまり、たとえDIの水準が高くても横ばいになっているということは、景気拡大の動きが一服しているということだ。ヒストリカルDIとの整合性は取れているのではないか。
景気動向指数が、景気の実態をきちんと把握できるように常に見直していくことは必要だ。しかし、今の景気動向指数がおよそ景気の実態からかけ離れたものと決めつけるのはおかしい。
景気ウォッチャー調査の現状判断DIの推移を見ると、おおむね景気動向指数の動きと一致している(図表)。
2014年以降や2018年以降の景気動向指数の低下は、ウォッチャー調査のDIの低下と連動している。このことからも、景気動向指数やヒストリカルDIは景気動向を反映していないという前提で見直しを進めるのは適当ではない。
ましてや、戦後最長の景気拡大を実現できなかったのはけしからんという発想で見直すのであればなおさらだ。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹 鈴木明彦)
※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら
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August 19, 2020 at 04:00AM
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